TX-88Dの復元・改造記

TX-88Dの改造仕様
項目

 ・搬送波出力:50W(効率70%以上)
 ・終段プレート電流は、150mA maxとする。
 ・変調方式:プレート・スクリーングリッド同時変調により100%まで変調可能
 ・変調器:外部からオーディオ信号を供給し、送信機内部の消費電力はゼロとする
 ・基本構造・再利用可能な部品はそのまま使用、外装デザインは手をかけない

  1. 電源部 
  2. 変調部

出力50Wの搬送波を100%変調するには、同程度の変調出力が必要である。当然ながら6BQ5PPでは全く無理で、変調トランスも容量的に使用不可能です。 

そこで、40年前に実験して実績のあったオーディオ用の出力トランスの一次側(Hi-Z)と二次側(Lo-Z)を逆に接続してロー・インピーダンス(Lo-Z)をハイ・インピーダンス(Hi-Z)へ変換する変調用変成器として使用することにしました。

これによりプレート側は変調リアクタを経由して直流(プレート電源)を供給し、変調用のオーディオ信号はこの変成器によって供給するような組合せによる改良ハイシング変調としました。 

改造版TX−88Dでは、外部からロー・インピーダンスでオーディオ電力を供給すれば良いので、変調用の増幅器は、真空管でも半導体でも好きなもので構成してを使用できることになります。 

当初、6CA7プッシュプルでプレート変調のみを行ったところ、フルに動作させないと100%変調をかけるのは難しい。 

そこで、定電圧化されている、スクリーングリッドについても、別途変調用にトランスを設けプレート側のオーディオ信号を分配約20%程度変調が掛かるようにしたところ100%に近い深い変調が掛かるようになりました。

  以下具体的な内容です。

試しに低域でのリアクタンスを計算すると
(1)50Hzでのリアクタンスは
 XL=2πfL=2π×50×10
        =1570[Ω]
(2)100Hzでのリアクタンスは
 XL=3140[Ω]

もしインダクタンスが20Hであれば、50Hzで3140[Ω]、100Hzで6280[Ω]となります。
ここで、終段プレートインピーダンスは、電圧を460[V]、プレート電流を130[mA」と仮定して計算をしますと
 Rp=460/0.13=3538[Ω]

終段プレートインピーダンスが負荷として変調リアクタ(チョーク)と並列に接続されますので上の原理を示す構成図を参考に結合コンデンサのリアクタンスが無視できる大きさでゼロと仮定して計算してみます。(プレート負荷インピーダンスは純抵抗と仮定)
変調リアクタXLとプレート負荷インピーダンスRpとして並列接続されたインピーダンスZmは
50Hzでは
 Zm=XL・Rp/(XL+Rp)
   =1570×3538/(1570+3538)
   =1087[Ω]

100Hzでは
Zm=XL・Rp/(XL+Rp)
   =3140×3538/(3140+3538)
   =1663[Ω]
インピーダンスの変換を担うトランスの入力側から見たインピーダンスは巻線比の2乗分の1である低いインピーダンスとなります。
使用するトランスは、LUXのOY-15-5ですので、オリジナルの使用法で、巻線はプッシュプルですのでP1とP2間の巻線が5KΩ、スピーカー側は、16、8、4Ωのタップになっています。
変調信号を供給するパワーアンプの負担を軽くするために、いくらかでもインピーダンスを上げることを考慮し、一番多く巻き込んである16Ω巻線を使用します。
この場合、インピーダンス比は巻線比 nの2乗ですから

 n^2=5kΩ/16Ω
   =312.5

よって、変調入力端子から見た負荷インピーダンスZiは
50Hzでは
 Zi=1087/312.5
  =3.478[Ω]

100Hzでは
  Zi=1663/312.5
   =5.321[Ω] 
となる。
このことから、50Hzでは、3.4[Ω]とやや負荷が重くなるが、100Hzでは5.3[Ω]ということで真空管の6CA7プッシュプルのA3500でも何とか変調できそうであることがわかった。
その後、半導体のトランジスタやFETで構成されたパワーアンプの出力インピーダンスを測定したら1Ω以下というすばらしい結果もあり、低域特性は出力インピーダンスが低いほど良好で真空管よりも半導体で構成した汎用変調器(パワーアンプ)との相性が良いことも判明した。

またスクリーン・グリッド(SG)へも同時に行いたいため、電源が安定化されていることもあり、専用の変調トランスを設けメインのプレート変調回路からタップダウンした出力にさらに抵抗で減衰させ結果的に約10〜20%程度変調に寄与させることで、プレート変調でさらなる電力を加えなくとも100%まで変調できる。
SG変調回路の負荷側へ挿入されている10kΩ抵抗は、負荷となるスクリーングリッドとの整合をとる目的とトランスの2次側巻線の分布容量による影響でピークが出ないように抑えるために設けてある。

以下は、最終の変調回路である。



SG変調用トランス




リアから見た変調用リアクタ(チョーク)と変調用変成器
ANT切り替え等リレーは終段部シールドケース内に設置


終段側から見た変調用リアクタ(チョーク)と変調用変成器
チョーク隣の基板は、SG定電圧電源回路

3.高周波部
 搬送波出力を10Wから50Wと出力を増力するため、電源部を強化したことに加え、終段の電力増幅部プレートには大きな変調電力も加わることになる。
 オリジナルのTX−88Dでは、S2001が1本使用されていたが、今回は余裕を持たせるためにS2001を2本使用しパラレル接続とする。
 これに伴いS2001のソケットの追加のため取り付け穴加工のためにシャーシ加工が必要である。また、終段回路付近には、シャーシ上面にLPF、シャーシ内部には送受切り替え用リレーが内蔵されていたため、LPFは、アンテナチューナーを併用することから撤去、リレー1個は、LPFの場所へ移設、もう一つは変調回路付近へ移設した。

 終段電力増幅回路がS2001パラレルに変更した以外は、基本的にオリジナルと同じ回路構成となっている。
 追加された仕様としては、終段電力増幅部を高能率のC級増幅として安定に動作させるため、スクリーングリッドの電圧安定化と固定バイアスを加えるようにバイアス回路を追加している。
 励振段は、オリジナルのまま12BY7Aで、やや非力であるが、終段のコントロールグリッドには2〜3mAのグリッド電流(Ig)が流れる。


背面から見た内部構造

終段管付近の配線、左上はバイアス調整用VR

 4.全体回路図

変調用信号は,別筐体に半導体で構成した汎用変調器から供給される。

 5.参考資料  

 TX−88D回路図(オリジナル)

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